先日、職場のテレビで、あの「長谷川式認知症スケール」の長谷川和夫先生が認知症になったというドキュメンタリー番組を観ました。
認知症の第一人者が、認知症とは・・・ショックです。
介護の仕事をやっていれば誰もが一度は聞いたことがある「長谷川式認知症スケール」。
しかし、お恥ずかしながら「認知症の検査」っていうだけで具体的な内容も大してよくわかっていないことに気付きまして・・・
この機会に改めて「長谷川式認知症スケール」についてきちんと知っておこう!と思い、備忘録も兼ねて調べてみることにしましたので是非最後までお付き合いください。
長谷川式認知症スケールとは
長谷川和夫先生について
長谷川式認知症スケールを知るためには、まず開発者でもある精神科医の長谷川和夫先生について知っておく必要がありますね。
1929年2月5日生まれの91歳。日本の医学者、精神科医。認知症介護研究・研修東京センター名誉センター長、聖マリアンナ医科大学名誉教授。専門は老年精神医学・認知症。
(参考:Wikipedia)
認知症の第一人者である長谷川和夫先生は、認知症を専門として研究する決心をしたきっかけを以下のように語っています。
「忘れられない患者さんがいらしたんですよ。その人はね、五線紙があるでしょう、音符を書く。そこに彼は『僕の心の高鳴りはどこに行ってしまったんだろうか』という悲痛な叫びが書いてある。それを心にずっと秘めて、これはもう絶対にこの道は認知症に対する研究、診療っていうのは何がなんでも続けるぞと思った。」
この話を聞いて思い出したことがあります。
以前、僕が対応した利用者さんでとても絵が好きな方がいらっしゃいました。
入所した当初は認知症の初期症状は見られるも、足取りもしっかりしておられ、おしゃれでお話し好きで絵の上手なおじいさんでした。
しかし、認知症の進行がとても早く、ADLも落ちてみるみるうちに寝たきりに。
その方が今まで描いていた絵の片隅には、認知症によって場所や時間、そして自分自身もわからなくなっていく戸惑いの文章も書かれていました。
自身が認知症になってしまった長谷川先生も、以下のように仰っています。
「もうだめだとか。もう僕はあかんとか。もう何もできなくなるのかとか。どんどんひとりになる。自分が認知症になってみたら、そんなに生やさしい言葉だけで、人様に申し上げることはやめなくてはならないと。こんなに大変だと思わなかったな、ということだよね。」(出典:NHK「認知症の第一人者が認知症になった」)
認知症になった本人じゃないとわからない、健常者の我々では計り知れない感情があるのは確かなようです。
認知症は想像以上にデリケートな問題なのかもしれません。
利用者さん本人はもちろん、そのご家族への対応は慎重にすべきですね。
長谷川式認知症スケールとは
Wikipediaによると、長谷川式認知症スケールとは、主に認知症患者のスクリーニングのために用いられる言語性知能検査とあります。
スクリーニングとは「選別」や「ふるい分け」といった意味を持つ言葉で、症状のない者やある特定疾患が懸念される集団を対象に検査を行い、目標とする疾患の罹患者や発症が予測される患者を検出するための検査。
(参考:看護roo!)
長谷川式認知症スケールの検査項目
- 自己の見当識「歳はいくつですか?」
- 時間に関する見当識「今日は何年の何月何日ですか? 何曜日ですか?」
- 場所に関する見当識「ここはどこですか?」
- 作業記憶「これから言う3つの言葉を言ってみてください。」「これから言う数字を逆から言ってください。」
- 計算「100ー7は?」「そこから7を引くと?」
- 近時記憶「問4で覚えてもらった言葉をもう一度言ってみてください。」
- 非言語性記銘「これから5つの品物を見せます。それを隠しますので何があったか言って下さい。」
- 前頭葉機能「知っている野菜の名前をできるだけ多く言ってください。」
以上の9つの質問に答え、20点以下であれば認知症の可能性があると判定されます。
検査内容自体はとても簡単なものばかりです。
認知症の人でも回答できるように徹底的に簡潔化してあるのでしょう。
一見、単純な検査のようですが、実は認知症について様々なことがわかるように作成されているんです。
検査結果からわかること
20点をボーダーラインとして、認知症の可能性についてわかるだけでなく、認知症であることが既に確定している場合は、20点以上なら軽度、11〜19点なら中等度、10点以下では高度と判定されます。
また、総合点の判定以外にも、以下のポイントを見ることで、認知症の種類などもわかることがあります。
- 意識、注意:課題に対する注意や集中力があるか
- 態度:受診にそぐわない態度を取る場合は前頭側頭型の可能性がある
- 発動性、自発性:考え不精は前頭側頭型などの可能性がある
- 言い繕い:言い訳をする場合はアルツハイマー型の可能性がある
- 依存性:付き添いの家族に代弁を求める様子があればアルツハイマー型の可能性がある
- 精神運動スピード:思考緩慢があれば皮質下性認知症(血管性認知症、パーキンソン病など)の可能性がある
- 記憶:時間を空けて同じ質問をした場合に答えられない様子があればアルツハイマー型の可能性、逆に時間を空けてもヒントがあれば答えられるようであれば皮質下認知症の可能性がある
- 語想起:野菜の問題で脈絡のないものを4〜5つ答えて止まってしまう場合はアルツハイマー型、制限時間内の答えられない場合は皮質下認知症、途中でやめてしまう場合は前頭側頭型認知症の可能性がある
- 保続:同じ言葉や行為を、次の場面に移っても続けてしまうとアルツハイマー型の可能性がある
点数だけでなく、検査中のやり取りからも認知症の種類の切り分けもできるんですね。
今でこそ認知症が種類によって症状も違ってくることは介護の現場では常識ですが、長谷川式認知症スケールが公表された1974年に、ここまで認知症を詳しく調べていたのかと思うと長谷川先生の功績を思い知らされます。
長谷川式認知症スケールの注意点
開発者の長谷川先生自身も「本人がやる気を出さないと正確に評価できません」と述べているように、この類のテストは退屈なものです。
ましてや、自分が認知症であると認めたくない人も多いでしょうし、本人が傷つかないように、且つ真剣に検査が受けれらるように上手く誘導していくことが必要になってきます。
また、言語性知能検査なので、失語症や難聴がある場合は検査が難しいことも注意しておかなければなりません。
認知症かな?と疑問に思ったら長谷川式認知症スケールを受けるという選択肢があることを、家族ではなく本人が常に意識しておくことが重要になってくるのではないでしょうか。
もちろん、僕自身も「あれ?」と思ったら早めに受診するつもりです。
認知症への対応は、正しい知識がないと介護をする側にとって相当な苦労を強いられますから。
早めに認知症であることを受け入れば、それだけ家族への負担が軽減することにもつながります。
長谷川式認知症スケールを調べてみて
当時はただ「痴呆」と呼ばれ、偏見や差別の対象になっていた認知症を、学術的に捉え統一化したという科学者としての功績は素晴らしく、認知症に悩む高齢者や家族に対する長谷川先生の医師としての深い愛情を感じました。
しかし我々、介護士は今まで資格を取る過程で認知症について学んできているはずですが、日常的に認知症に触れすぎてマンネリ化した結果、本人や家族の抱える悩みや不安などをおろそかにしてしまってはいないでしょうか。
認知症の患者本人も、今までできていたことが徐々にできなくなっていく複雑な感情に悩んでいます。
そして、長谷川先生のように我々も将来、認知症になる可能性があります。
「自分がもし認知症になったらどう思うだろうか?」
「家族はどんな気持ちだろうか?」
他人事としてではなく、自分もいつかそうなるんだと思いながら認知症に向き合える介護士でありたいです。
そして、人として認知症に向き合える職場が増えていくことを切に願います。
これから利用者が激増するからこそ、認知症に対して適切な対応ができる職場作り、ひいては介護業界の在り方を、国を挙げてもっと真剣に考えていかなければならないのではないでしょうか。
全ての人にとって、認知症は他人事ではないのですから。
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