認知症の種類|対応のコツはたった1つ!

認知症の種類|対応のコツ

介護の仕事をやっていると避けては通れないのが、認知症の対応です。

しかし、家族に認知症の高齢者がいるという人以外は認知症の人と関わる機会なんてほとんどないので、介護の仕事をしていると認知症の対応について悩むこともありますよね?

そんな方は、まずは認知症について基礎知識を持ちましょう。

認知症についてあまり学んでいない、もしくはなんとなくしかわからないという状態では当然、認知症の対応は難しくなります。

基礎知識を持ったうえで、利用者個人の人生や価値観などを理解して柔軟に考えれば、認知症の対応はそれほど難しいことではありません。

認知症の対応で悩まないコツはたった1つ。

「個人」を意識することです。

今回は、認知症の種類などの基礎知識をおさらいしたうえで、認知症の対応についても詳しく解説していきますので、特に介護の仕事を始めたばかりの人で認知症の対応について悩んでいる人は、是非参考にしてください。

目次

対応の前にまずは認知症を知ること

それでは認知症の概要について理解を深めていきましょう。

基礎知識がない状態で仕事をするのは、裸で戦場に向かうようなものなので超危険です!(笑)

どれも初任者研修で学ぶような内容ばかりですので、介護士ならば有していて当然の基礎知識です。

認知症の診断

問診、血液検査、尿検査、脳波、心電図、CTやMRIといった画像検査など、患者の状態と家族や本人からの情報をもとに総合的に認知症の診断が行われます。

また、認知機能の検査も行われます。

認知機能の検査として代表的なものに『改訂長谷川式簡易知能検査スケール(HDS-R)』がありますね。

以前、長谷川式認知症スケールについてまとめた記事もありますので合わせて読んでみてください。

認知症による障害

認知症による障害は、記憶障害と認知機能の障害に分けることができます。

記憶障害

特にアルツハイマー型認知症では、初期の頃から記憶障害が目立ち、近時記憶としてのエピソード記憶の障害が特徴的です。

長期記憶のなかでも昔のことや手続き記憶は比較的遅くまで保たれているので、昨日のことは忘れているが数十年前のことは覚えている、といった状態が起こります。

認知機能の障害

主な認知機能の障害は5つあります。

  1. 失見当(見当識障害):時間や季節、場所の見当がつかない状態
  2. 失語:言葉を理解することや言葉を発することが傷害された状態
  3. 失認:目や耳などの感覚器は障害されていないのに、見たり聞いたりしている対象を正しく認識できなくなる状態
  4. 失行:からだを動かす機能は障害されていないのに、目的に応じた行為ができなくなる状態
  5. 実行(遂行)機能障害:料理などの家事、入浴や排泄といった目的のある一連の行動を行うために必要な『計画・実行・監視能力』などを含む、複雑な認知機能が障害された状態

記憶障害と認知機能の障害は、中核症状とも呼ばれ、ほぼ全ての認知症に見られます。

認知症に似た症状

①年齢相応の物忘れ

健康な人の場合、例えば昼食のメニューを忘れても『食べた』こと自体は覚えています。

認知症の場合、昼食を食べたという『体験』そのものを忘れてしまいます。

認知症ではよく『今日は朝起きて何をしたか』『誰に会ったか』といった出来事や体験に関するエピソード記憶が障害されます。

しかし、通常の物忘れと認知症の物忘れは、必ずしも明確に区別できるわけではありません。

近年では、軽度認知障害という概念が示されています。

これは正常と認知症の境界にあり、時間の経過によって認知症に移行すると考えられている状態のことを指します。(参考:厚生労働省「e-ヘルスネット」

②せん妄

せん妄とは幻覚や妄想を伴い、意識障害を認める状態のことです。

意識障害が軽度の状態では、ぼんやりとして話しかけても返事がなく、つじつまの合わないことを言ったりするので、認知症のように見えることもあります。

また、落ち着きがなくなり、急に怒り出したり、無視したりするといった状態も起こります。

高齢者は脳卒中、心疾患、腎疾患、感染症など様々な身体的なストレスによって意識障害を起こしやすいです。

疾病に関連する発熱、脱水、貧血、薬剤の蓄積といった身体的ストレスや、急激な環境の変化や医療処置などによる拘束、強い不安などもせん妄の引き金になることがあります。

せん妄は、比較的急激に発症し、適切な身体面の治療と環境の整備ができれば消失するのが特徴です。

認知症の人でも、認知症でない人でもせん妄を起こすことがあり『せん妄=認知症』と決めつけるのはNGです。

③うつ状態

うつ状態では気力だけでなく、注意力や思考力といった認知機能全般の低下がおこり、表情も乏しくなり、動作もゆっくりになります。

そのせいで認知症と誤って判断されやすいのが、仮性認知症(うつ病性仮性認知症)と呼ばれる状態です。

仮性認知症は、頭痛、不眠、胃腸障害、疲れやすいなどの身体症状の訴えがあることが特徴で、抗うつ剤などによって、うつ状態が改善されると、認知症のような症状も改善します。

認知症の種類と特徴

認知症は、原因となる疾患で特徴が違います。

認知症の種類と、それぞれの特徴を知ることは、認知症の対応において必要不可欠です。

それでは、主な認知症とそれぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。

アルツハイマー型認知症

認知症といえばコレ!みたいな代表的な認知症ですね。

認知症で一番多いアルツハイマー型認知症は、1906年、ドイツの神経病理学者であるアロイス・アルツハイマーによって発見されたアルツハイマー病を原因とする認知症です。

発症後、認知機能が徐々に低下した後に寝たきりになって終末期を迎えます。

CTやMRIなどの画像検査では、大脳の記憶に関連する海馬を中心とした脳萎縮が認められます。

初期では、近時記憶とエピソード記憶の障害が目立ち、いつも探し物をしたり、直前にあったことをすぐに忘れてしまうため不安感が強く、うつ状態になることも。

中期では、見当識障害が進み、時間や場所の見当識が失われるため、徘徊がみられるようになったり、失認が進むため、日常生活が不自由になり、ちょっとしたことで混乱状態に陥ってしまいます。

後期では、発語や思考活動みられなくなり、失禁が多くなり、寝たきり状態になることも多く見られます。

アルツハイマー型認知症は徐々にではありますが、確実に認知機能が低下していく病気です。

しかし、直線的に低下していくわけではなく進行が止まったかのような時期もあれば、病気の治療や入所、入院などといった身体や環境の変化で急激に認知機能が低下することもあるのが特徴です。

脳血管性認知症

脳梗塞や脳出血といった脳血管疾患によって起こる認知症です。

主に脳血管疾患の発作によって認知症は急激に発症しますが、ごく小さな脳梗塞がたくさん起こる多発性脳梗塞による認知症は、ゆるやかに発症することもあります。

まひや嚥下障害、言語障害などの神経症状を伴うことが多いのが特徴で、障害が起こった脳の部位によって神経症状も多様な現れ方をします。

脳血管疾患の発作のたびに認知症も悪化し階段状に進行していきますが、疾患のコントロールができれば再発作を防ぐこともできるので、認知症の進行を長く抑えることが可能です。

レビー小体型認知症

比較的新しく発見された疾患で、レビー小体という物質が脳の神経細胞の中に出現することで認知症になることがわかっていますが、その原因などはまだ解明されてないのが現状です。

初期では、幻視や見間違いが目立ち、幻視の多くは実際にはいない小動物や人などがありありと見えるようです。

パーキンソン症状が出現するのも特徴の一つです。

頭がはっきりしているときと、ぼーっとしているときの変動が大きく、記憶の障害が目立たないので周囲の人が戸惑うこともよくあります。

パーキンソン症状に加えて、認知機能障害も出現するので、転倒事故のリスクが高いです。

前頭側頭型認知症

前頭側頭葉変性症(ピック病)によって起こり、初老期(40〜64歳)に発症する認知症では代表的なものです。

思考や感情、性格、理性などの働きを担う前頭葉と、記憶、言語、判断、聴覚などを担う側頭葉が萎縮していきます。

初期には、記憶量の低下や生活上の障害は少なく、家族や周囲の人が『反社会的行動、自制力の低下、無精、無頓着といった人格変化に気づくことが特徴的です。

本人に病識はなく、注意をしても悪びれた様子がみられないので周囲の人は「人が変わった」と感じてしまうことが多いようです。

決まったものしか食べないとか、決まった時間に決まった行動をとるという常同行動がよくみられます。

常同行動を遮ると、興奮したり暴力を振るったりするので施設での生活になじみにくく、介護職員としても関わりづらいという印象を持ちやすい認知症です。

慢性硬膜下血腫、正常圧水頭症

治療によって回復が可能な認知症なので、速やかに受診することが大切です。

慢性硬膜下血腫は、頭を打った後3週間〜3ヶ月程度経ってから症状が出てくることが多いです。

CTやMRIなどの画像検査で診断がつき、比較的簡単な外科手術で血腫を取り除くことができます。

正常圧水頭症は、頭の中や脊髄を流れる髄液の流れが障害され、脳の中心にある脳室にたまった結果、周りの脳を圧迫することにより起こります。

脳室にたまった髄液を逃がす手術が行われます。

認知症の中核症状と周辺症状

認知症の中核症状と周辺症状について知っておくことも、対応で悩まないためには必要です。

中核症状とは?

下記のような中核症状は程度の差はあるものの、認知症の人にほぼ共通して起こります。

  • 記憶障害
  • 失見当(見当識障害)
  • 失語
  • 失行
  • 失認
  • 実行(遂行)機能障害

過去の約束や、未来の予測が適切にできなくなり、不確かな『現在』しかなくなるため、常に緊張している状態で不安を抱えやすくなります。

周辺症状とは?

周辺症状(BPSD)は、記憶や認知機能に障害を持った人が、現実の生活に適応しようとしたときに引き起こされる症状のことを指します。

個人差があり、かつ一人の人であっても、症状は一定したものではなく変化しますが、主に心理症状と行動症状に分かれます。

心理症状
妄想、幻覚、不安、抑うつなど

行動症状
攻撃、徘徊、多動、過食、不潔行動など

このBPSDこそが、介護職員を悩ませる原因ともいえます。

以前は介護職員の立場から、問題行動と呼ばれることもありましたが、認知症の人からすれば、なんとか問題に対処しようとしている過程で起こっている症状なんです。

BPSDを引き起こす要因は以下のとおり。

内部要因
  • 便秘、不眠、発熱、血圧の変動、痛みやかゆみ、疲労などの身体的不調
  • 後悔、気がかり、焦り、不安、孤独などの心理的苦痛
外部要因
  • 音や光、温度や湿度、生活感のない広い空間などの物理的環境
  • 自尊心の低下、抑圧される、せかされるといった介護者からのストレス

これらの要因を把握しておいて、思い当たる節があれば一つずつ対処していくことで問題の切り分けができ、適切な対応が見えてくることもあります。

BPSDを引き起こさないために介護職ができること

先駆的にグループホームを立ち上げた林崎光弘氏はロック状態からの解放が認知症ケアの基礎であるとしています。(参考:「痴呆性老人グループホームケアの理念と技術 その人らしく最期まで」バオバブ社 1996年)

ロック状態とは以下の3つのロックを指します。

  1. 指示や禁止、激しい口調で相手の動きを抑圧するスピーチロック
  2. 過剰な薬物を投与するドラッグロック
  3. 体を縛ったり閉鎖的な空間に押し込めるフィジカルロック

フィジカルロックは、そもそも身体拘束は介護保険法で禁止されていますし、ドラッグロックはBPSDの状態によっては薬を使用せざるをえないこともあるので、医療との連携が必要になってきます。

つまり、介護職が日常的に留意すべきは『スピーチロック』ということになります。

利用者の健康管理はもちろん、利用者のできること、わかることを把握して、利用者に合った環境調整をするなどの工夫が大切です。

とはいえ、介護職員も神や仏ではないし、かのガンジーですらイライラすることがあると言っているくらいなので、体調が悪かったり疲れていたり、家族とケンカして機嫌が悪いときなどはイライラすることもあるでしょう。

そういうときは他の職員と一時的に交代したりして一旦、利用者から離れてしまうのもアリだと思います。

無理をして利用者のBPSDを悪化させたり、虐待してしまうくらいなら、いっそ離れた方がよっぽどマシです。

ただし、離席するためには「ごめん、代わって」といえることが許される職場の環境も必要です。

もし、あなたの職場が職員や利用者のことを一切考えずに、ただただ無理を強いるような職場だったら、あなたの身体と精神の健康のためにも、とっとと辞めてしまうことをお勧めします。

一番大事なのは、利用者でも職場でもなく、あなた自身ですから。

認知症の利用者への対応

それでは、具体的な対応について説明していきます。

認知症という病気を理解したうえで本人の立場に立って関わる

例えば、注意力の低下している認知症の利用者に後ろから声をかけると、気づかないことがあったり、驚いて転倒したり、怯えることもあります。

また、利用者の視野に正面から入り、目線の高さを合わせて話しかけたり、認知症を理解したうえで適切なコミュニケーション技術を用いることが大切です。

何を話すかではなく、どう話すか

認知症の対応において、聞く姿勢や話す姿勢は重要です。

まず、受容的な態度でゆっくり話しましょう。

また、無視や拒否、否定はせず、穏やか表情でゆっくり相手の反応を待ちながら関わることも大切です。

そのためには介護職員の精神状態に余裕があることが必要不可欠になってきますので、ギリギリの人員でぶん回す職場や、職員間の協力がないような職場では、そもそも認知症の対応は難しいといえますね。

穏やかな声で、短くわかりやすく

高い声は高齢者には聞き取りづらいことが多いので、無駄に大きな声で話すよりも落ち着いたトーンで話す方が聞き取りやすくなります。

テレビや騒がしいところでは、職員の声かけに注意を向けることが難しいので、無理に話しかける必要はありません。

また、早口だとせかされているような感じがするので、ゆっくり話し、一度にたくさんのことを伝えても認知症の人は理解できないので、相手が理解できそうな量を、なるべくわかりやすい表現で伝えることが重要です。

認知症に対応する最大のコツは『個人』を意識すること

ここまで認知症についての基礎知識をお伝えしました。

このようないわゆるテキストで学ぶようなことはもちろん重要ですが、あくまで認知症を一般的に捉えた『全体』の話です。

知識に振り回されず、知識をベースにして利用者『個人』を見ることが、認知症の対応において最も重要で、最も有効なコツです。

認知症の種類によって、ある程度の傾向はあるものの、今までの生活背景や環境、価値観などにより個人差があります。

真面目な人ほど知識に囚われて、自分でも気づかないうちに柔軟な考え方ができなくなったりしやすいです。

「アルツハイマーはこう!」「レビーはこう!」と決めつけるのではなく、利用者それぞれを理解して「機嫌が良くなる話題は○○だな」「徘徊するときは○○を探すことが多いな」といった『個人的な原因』を見つけていくことが、認知症の対応で最も大切なことです。

プロとして勉強することはもちろん大切ですが、学んだ知識を振りかざすだけの頭でっかちでは人間を相手にした対人支援はできません。

知識は上手に使ってこそ初めて意味を持ちます。

知識を現場で上手く応用して、認知症の対応に活かしてください。

どうしても無理なら、先輩やリーダーに相談すれば、一人では思いつかないような突破口を教えてくれるかもしれませんよ。

悩んだときは一人で抱え込まず、チームで協力することができるのも、介護のプロとして必要なスキルです。

認知症の種類|対応のコツ

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