なんで介護職の給料は安いの?…なんとかなんない?
介護職の給料が安い理由として、介護保険制度や法人の内部留保問題、介護職の価値が世間に理解されていないことなどが挙げられます。
他職種の給料と比較しても介護職の給料が安いのは事実ですが、給料アップの方法がないわけではありません。
今回は『介護職の給料が安い理由』『介護職の平均給与』『介護職の給料アップを実現する方法』について解説していきます。
この記事を読めば、給料を上げるために自分でできる対処法がわかり、明日から給料アップを目指せるようになります!
介護職の給料が安い5つの理由
介護職の給料が安い理由としては、主に次の5つがあります。
- 介護保険制度の問題
- 法人の内部留保問題
- 介護事業所の赤字
- 非正規雇用の割合
- 介護職の価値の理解
それぞれ解説していきます。
介護保険制度の問題
介護保険制度により介護報酬と人員配置基準が定められていることが、介護職の給料が安くなっている理由の一つです。
介護保険制度において利用者負担は原則1割となっているため、介護施設の収益のほとんどは介護報酬に頼っている状態です。
頼りの介護報酬は国によって金額が決められているせいで、介護職員に給料として還元できません。
また人員を減らして職員一人頭の給料を上げようとしても、人員配置基準が決まっているため人件費削減も難しいのが現実です。
そもそも人員を減らせば職員の負担が大きくなります。
たとえ給料がたくさん貰えるとしても、今より大変な環境で働きたいと思う介護職は少ないでしょう。
つまり、介護職の給料を上げるためには、介護保険制度そのものの見直しが必要ということです。
法人の内部留保問題
内部留保とは、法人が運営して得た利益を、将来の経営安定のためにプールすることを指します。
運営法人が利益を内部留保し職員へ還元しないことが、介護職の給料が安くなっている理由です。
平成25年には、社会福祉法人の内部留保が多いと問題視されたこともあるほどです。
その後、内部留保の対策として社会保険法に『社会福祉充実計画』が盛り込まれました。
しかし残念ながら、令和4年度において社会福祉充実計画を策定している事業所は、なんと1割にも満たないそうです。
ただし、内部留保にはやむを得ない事情があることも、あわせて理解しておく必要があります。
介護保険制度は改正が多いため、介護報酬の引き下げのような法案が通る可能性がないとも言い切れません。
介護報酬が引き下げられた場合の備えとして、ある程度の運営資金を確保しておかなければならないという事情があるようです。
参考1:e-GOV法令検索『社会福祉法』
参考2:厚生労働省『社会福祉充実計画』『令和4年度における社会福祉充実計画の状況について』『特別養護老人ホームの内部留保について』
介護事業所の赤字
介護事業所の赤字も、介護職の給料が安い理由です。
福祉医療機構の調べによると、2021年度における赤字の施設の割合として次のような結果が出ています。
- 特養(従来型):42%
- 特養(ユニット型):30.5%
- 老健:33.8%
特養でも老健でも、およそ3割以上の施設が赤字という結果です。
これだけの施設が赤字では、介護職の給料が安くなるのも頷けます。
参考:独立行政法人福祉医療機構『2021 年度(令和 3 年度)特別養護老人ホームの経営状況について』『2021 年度(令和 3 年度)介護老人保健施設の経営状況について』
非正規雇用の割合
介護業界は非正規雇用が多いため、介護職全体の給料の金額を引き下げている可能性が考えられます。
令和3年度介護労働実態調査では、介護職の非正規雇用は全体の約3割におよぶそうです。
派遣やパート・アルバイトの場合、昇給や賞与がないケースが多いので、正規雇用に比べると年収は少なくなります。
正規雇用が多い業界と比較すると、非正規雇用が多い介護職は業界全体の給料が安い傾向にあります。
参考:介護労働安定センター『令和3年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書』
介護職の価値の理解
介護職という仕事の価値や専門性が理解されていないことが、給料が安い理由になっています。
介護職は高齢者の『身の回りのお世話役』といったイメージが強く、誰でもできる仕事だと思われがちです。
また介護職は医師や看護師のような独占業務がないため、無資格でもできる仕事です。
しかし、入り口こそ無資格だったとしても、無資格のまま介護職を続ける人は多くありません。
介護職の多くは、初任者研修・実務者研修・介護福祉士などの資格取得を目指し、より専門的な知識と技術を習得していきます。
資格によっては喀痰吸引・経験栄養といった一部の医行為すら可能です。
業界全体の給料アップのために、介護職の専門性はもっと広く認知されるべきでしょう。
本当に介護職の給料は安すぎる?介護職の平均給与を調査
ここまで介護職の給料が安い理由を解説してきましたが、実際のところ本当に介護職の給料は安いのでしょうか?
令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果をもとにして、介護職の平均給与を次の4点にわけて見ていきましょう。
- 職種別の平均給与
- 勤続年数別の平均給与
- 保有資格別の平均給与
- 施設種類別の平均給与
厳密にいうと、給料は『基本給』のことを指し、給与は『手当も含めた支給額』を指します。
しかし、基本給だけを見ても月給をイメージしづらいので、ここでは『給与』のデータを紹介していきます。
参考:厚生労働省『令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要』
職種別の平均給与
厚生労働省の調べによると、職種別の介護職の平均給与は約32万円という結果が出ています。
他職種の平均給与は以下のとおり。
- 看護職員:369,210円
- ケアマネジャー:353,560円
- PT・OT・ST・機能訓練指導員:350,080円
- 生活相談員・支援相談員:338,370円
- 管理栄養士・栄養士:311,190円
- 事務職員:301,940円
- 調理員:259,270円
他職種の平均給与と比較した際、介護職はおよそ中間に位置しています。
勤続年数別の平均給与
勤続年数別の平均給与は、1年以上で約28万円、10年以上で約34万円、その差は約6万円という結果が出ています。
- 1〜1年11ヶ月:277,350円
- 2〜2年11ヶ月:287,560円
- 3〜3年11ヶ月:299,970円
- 4〜4年11ヶ月:300,180円
- 5年~9年:311,970円
- 10年以上:342,490円
また、同調査では令和2年度と比べ令和3年度では、1年以上の平均給与のみ約2.5万円も上昇しているという結果も出ていました。
介護職員を増やしたいという意図の表れでしょうか。
最初の給料だけ上げても意味ないんですけどね……。
保有資格別の平均給与
介護の資格別の平均給与は、無資格で約27万円・初任者研修で約30万円・実務者研修で約31万円・介護福祉士で約33万円という結果が出ています。
- 社会福祉士:363,480円
- ケアマネジャー:362,290円
- 介護福祉士:328,720円
- 実務者研修:307,330円
- 介護職員初任者研修:300,510円
- 保有資格なし:271,260円
無資格と初任者研修を比較すると、約3万円も給料に違いがあります。
無資格で介護職を続けるメリットはないでしょう。
施設種類別の平均給与
施設によっても給料が異なります。
- 特養:328,120円
- 通所リハ:326,940円
- 老健:323,770円
- 有料老人ホーム・ケアハウスなど:313,160円
- グループホーム:287,670円
- 訪問介護:286,920円
- デイサービス:275,670円
一番給料が良いのは特養という結果が出ています。
ただし、勤続年数や保有資格などによっても給料は異なるため、実際は上記に当てはまらないケースもあるでしょう。
介護職の給料はいつから上がるのか?【2023年最新】
岸田総理は、かねてより介護職の処遇改善について言及していたため、当選が決まってから給料が上がる日を待ち望んだ介護職は多いはず。
実際はどうなったかというと、2021年11月には介護職の給料月額9,000円アップが閣議決定され、令和4年度の介護報酬改定から介護職のベースアップは始まっています。
さらに2022年10月には、第3の処遇改善加算とも呼ばれる『介護職員等ベースアップ等支援加算』も新設されました。
ただし、賃上げが実施できるのは一定の条件を満たした事業所のみです。
厚生労働省の調査では、令和4年度において介護職員等ベースアップ等支援加算を取得している事業所は全体の約8割という結果が出ています。
ほとんどの事業所で給料アップが実施されている一方、約2割の事業所では給料が上がっていないということです。
もし今の事業所では給料アップが見込めないなら、思い切って転職という選択肢もアリかもしれません。
なお、ベースアップ等支援加算は、介護職員の給料アップを『恒久的に』おこなうことを目的としています。
つまり、今後も介護職の給料が上がっていく可能性は十分にあるので、処遇改善加算を取得している事業所で働きましょう。
参考1:厚生労働省『処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)』
参考2:厚生労働省『介護職員の処遇改善に関する加算等の取得状況』
【自分でできる】介護職の給料アップを実現する5つの方法
では、ここからは介護職の給料アップを実現するための方法を解説していきましょう。
自分で対策できる給料アップの方法は、主に次の5つがあります。
- 介護福祉士の資格を取得する
- 管理職を目指す
- 夜勤回数を増やす
- 同じ事業所で長く勤める
- 給料の高い職場を探す
それぞれ解説していきます。
介護福祉士の資格を取得する
介護職の給料を上げる王道の方法として、資格取得が挙げられます。
介護現場では、初任者研修・実務者研修・介護福祉士などの資格を持っていると、資格に応じて手当がつきます。
前述の『保有資格別の平均給与』を見てもわかるように、無資格と介護福祉士では給料に大きな差があります。
初任者研修や実務者研修を受講するには費用がかかりますが、長く介護の仕事をしたいなら自己投資として割り切りましょう。
また介護福祉士の資格を取得すると就職先の幅も広がるため、希望の給料がもらえる職場に転職しやすくなるメリットもあります。
管理職を目指す
数年の時間はかかりますが、昇格すれば給料はアップします。
一般職としての実績が認められれば、リーダー・主任・サービス提供責任者など管理職への昇格も不可能ではありません。
厚生労働省によると、管理職では平均給与が約4万円上がるという調査結果も出ています。
ただし、事業所や業務形態によって役職手当は異なります。
もし昇格したあとの給料に満足できない場合は、実績を武器にして給料アップが狙える職場へ転職も考えましょう。
参考:『令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果』
夜勤回数を増やす
介護職は、夜勤回数により給料が万単位で変わる仕事です。
医労連の調べによると、正規職員の夜勤手当の平均は次のとおりです。
- 2交替夜勤で約6,000円
- 3交替夜勤の準夜で約4,000円・深夜で約5,000円
また夜勤回数の平均は次のとおり。
- 2交替夜勤で4.4回
- 3交替夜勤で6.4回
夜勤回数を増やせば給料は上がりますが、体への負担も考えると5〜6回が妥協点でしょう。
筆者は1ヶ月で7回の夜勤を経験したことがありますが、やはり頭痛や睡眠障害に悩まされました。
なお、1ヶ月の夜勤日数(回数)に法規制はありませんが、看護師には月8日以内(2交替夜勤では4回以内)という指針が出されています。
もし夜勤回数が今より増やせないなら、夜勤手当が多い職場へ転職するのも一つの方法です。
参考1:医労連『2022年介護施設夜勤実態調査結果概要』
参考2:厚生労働省『看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針』
同じ事業所で長く勤める
ほとんどの事業所では毎年昇給があるので、勤続年数が長くなるほど給料は上がっていきます。
前述の『勤続年数別の平均給与』を見ても、1年目では約28万円の給料が、10年以上勤続すれば約34万円までアップすることがわかります。
しかし、自分に合わない事業所で長く勤めるのは苦痛です。
幸いなことに介護職は、介護保険制度の施設サービス・居宅サービス・地域密着型サービスから、さまざまな仕事が選べます。
介護の仕事は辞めることなく、長く勤められる職場探しができるのも、介護職の強みといえるでしょう。
給料の高い職場を探す
上記のとおり、介護職が働く場所には多くの選択肢があるので、手っ取り早く給料の高い職場を探すのも一つの方法です。
『施設種類別の平均給与』の見出しでも解説したように、特養・老健・有料老人ホームなどの施設形態によっても給料は異なります。
また同じ形態の職場でも残業時間・評価制度などに違いがあります。
基本給・各種手当・賞与などをチェックして、今より待遇の良い職場へ転職すれば、給料アップが見込めるでしょう。
介護職の給料が安い理由【まとめ】
では、今回のまとめです。
- 給料が安い理由5つ:介護保険制度の問題・法人の内部留保問題・介護事業所の赤字・非正規雇用の割合・介護職の価値の理解度
- 介護職の平均給与が他職種に比べて安いのは事実
- すでに国は介護職の処遇改善の見直しを始めており、今後も介護職全体の給料が上がる可能性はある
- 自分でできる給料アップの方法:介護福祉士の資格を取得する・管理職を目指す・夜勤回数を増やす・同じ事業所で長く勤める・給料の高い職場を探す
給料を上げたいなら、上位資格を取得したり夜勤回数を増やしたりといった、自分でできる方法から試していきましょう。
もし今の職場で給料アップが見込めないようなら、思い切って別の職場へ転職するのも有効な手段です。
介護の仕事は、施設介護・訪問介護など多くの選択肢から働きたい場所を選べます。
事実、自分に合った職場探しのために転職している介護職も少なくありません。
また給料面のような自分から切り出しづらい条件は、介護専門の転職エージェントを利用すると、本人に代わり交渉してくれます。
「給料が安い」と嘆きながら待っているだけでは、大幅な給料アップは期待できません。
あらゆる手段を用いて、積極的に給料アップを目指しましょう!
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